心に届く歌
「にしても2度目だな……本当にごめん」
俺はまた謝っていた。
彼女がいるにも関わらず親友を抱きしめるなんて。
立派な浮気か?これは。
「ううん…むしろ安心した……。
多分僕…温もり欠けているから、安心するんだと思う…」
温度のない声で言われても、ちっとも嬉しくないし、いつもの自虐も酷く聞こえる。
「それじゃ……」
「どうするんだ?」
「……帰ることにします…。
もう…今日はここにいたくない…。
逃げだとわかっているけど…このままなら切っちゃいそうだから。
監視の目がある方が良い。
今日ドクさん休み取ってくれているから」
「じゃ家でひとりじゃねぇじゃん」
「そうだけど……エル様がいないと、辛くて」
「シエル……」
エルちゃん、どれだけシエルに信頼されているんだ。
多分本人は信頼がどんな気持ちかわかってねぇだろうけど。
シエルは明らかにエルちゃんを信頼していた。
「初めて僕に優しくしてくれた人だから、安心するんだ。
エル様が僕を見つけてくれなかったら、きっと僕はここに存在していないから」
「シエル。んなこと言うな」
「ううん。
本当のこと。
これは僕がいつも言う自虐とかじゃない」
「自虐って自覚しているのか……」
「エル様にもアンスにも言われるからね。
言われるまでは気付かなかったよ。
僕、本当に今、エル様がいなかったら、きっとここに……いなかった」
シエルは一瞬だけ俺を見つめると、「それじゃ」と踵を返し、正門へ向かって行った。
何だろう。
視線だけだったはずだけど、何だか酷くひんやりした。
「日陰にいるからか……そうだよ、な」
シエルの目が、冷たいわけじゃないだろう。