心に届く歌
「悪いけど、俺はお前を親友だなんて思っていない。
友達とは思っているかもしれねぇけど」
「はあ?
だってあんなに仲良かったじゃねぇか」
「確かにね。
お前と一緒にいて楽しかったのも事実だ。
でも俺は、今の方が良い。
お前みたいに、シエルは俺の名字で近寄ってきていないから」
ソイツは黙り込む。
「卒業後にクザン家グループ会社に就職したい。
そう書かれた進路希望用紙を見た俺はどうなる?
今まで仲良くしていた奴の紙に書かれていたんだぞ?
俺は少なくともショックを受けたね。
お前は結局俺の肩書きしか見なかったのかって。
お前だけじゃねぇ。
他の奴も俺の家目当てで仲良くしてきやがった。
シエルと一緒にいた方が、よっぽど楽しいね」
「あっ、あんな貧乏人と一緒にいて何が楽しい!!」
「確かにシエルは俺ら中心街に住む奴から見て貧乏人だよ。
だけど、肩書きなんて一切見ていねぇし、さっきも言ったけどお前らといるよりよっぽど楽で楽しい。
つーかさ、俺の友達ぐらい、俺自身で選ばせろよ。
何でお前に指図されねぇといけねぇんだよ!」
ソイツは再び黙り込み、今仲良くしている友達の元へ戻って行った。
「……クサ」
我ながらクサい台詞だ。
どこのドラマだ。
だけど、シエルは何故かアイツと重なる。
名前も年齢も知らないアイツと。
多分、村出身っていうのが影響している。
だから、シエルを助けたいのかもしれない。
あの、儚くて壊れてしまいそうな存在を。
「……切りたいなんて、絶対俺が言わせないから」
それが、シエルを大事に想う俺たちの、願いだと思うから。