心に届く歌
「えっ…!
ちょっ、おろしてくださいっ!」
「暴れないでください。落ちますよ」
ドクさんの言葉はまるで魔法のようだ。
いつだって柔らかくて、すごく落ち着く。
僕は抵抗を止め、言われた通り大人しくした。
「偉いですよ。
ちょっとチクッとしますけど、我慢してくださいね」
初めてこの家にお世話になった時よりかはだいぶ良くなったけど。
まだ時折貧血が引き起こす眩暈がある僕の部屋には、点滴台と造血剤が置いてあった。
台に点滴の袋をぶら下げたドクさんは、僕の腕に針を刺した。
痛いけど、ほんの一瞬だし、これぐらいの痛みなら慣れている。
「シエル様。お嬢様がいないと寂しいですか?」
「えっ…………。
い、いきなり何を聞くんですか」
「いつもいる人がいないと、どうも物足りないと思いますか?」
「………何で、そんなこと聞くんですか」
「……白状しますと、わたくしは嬉しかったのですよ」
クスッとドクさんが笑う。
……こんなイタズラっ子みたいな笑み、浮かべることあるんだ。
いつも余裕な、柔らかな笑みを浮かべている人だから、ちょっと意外。