心に届く歌
「どこに、行くんですか」
「ふふ、どこへだって良いでしょ」
怪しげに笑うソンジュさん。
あの日の記憶が蘇る。
あの、ティラン伯爵様の元で働き始めた、初日を。
『これからよろしくね、シエルくん』
あの人はそう言って笑った。
目の前のソンジュさんと同じような、怪しげな笑みを浮かべて。
「何しているの、行くわよ」
「……行きたく、ないです」
「は?」
「行きたくないです。
僕には行くべき所があるので、失礼致します」
踵を返し、急ぎ足で戻ろうとすると。
「っ!!」
「行くな。ソンジュさんの命令には従ってもらう」
挨拶をした時しか話しているのを見たことがないベレイくんが、
僕の首にどこから取り出したのかわからないナイフを当て、低い声で僕を脅してきた。
「ベレイくん……」
「おれはソンジュさんの優秀で忠実なしもべだ。
主の命令に背(そむ)かうものは容赦しない」
「さすが優秀な下僕(げぼく)だわ。
ベレイ、連れてきてちょうだい」
「御意」
ナイフがスッと首から離れる。
しかしベレイくんに手は掴まれたまま。
僕は抵抗する間もなく、連れて行かれた。