心に届く歌
「一旦ベッドに行きましょう。
怪我されているようですから、手当て致しますね」
何も言わない僕をそっと抱き上げ、ベッドに座らせてくれる。
そして手早く手当てをしてくれた。
「洗面所お借りしますね」
全く微動だにしない僕に優しくドクさんは笑い、
洗面所で柔らかなティッシュを水で濡らし、
僕の切れた唇や鼻血を拭いてくれた。
「折角素敵なお顔立ちをしているのですから、大事にしてくださいね」
「……」
「どうされました?シエル様らしくありませんよ」
「……」
「お嬢様に何か言われましたか?」
「……部屋にいるよう、言われました」
「そうですか……」
「それって…直接は言っていませんけど、戦力外通知ですよね。
僕がいらないって、用なしだって、役立たずだってことですよね」
「考えすぎでは……?」
「僕…たまに自分で自分が怖くなるんです。
誰もかれも傷つけてしまいそうで、怖いんです。
いつ本当の自分が出てきて相手を傷つけるか…それを考えるだけで、もっ……」
僕は立ち上がり、スーツケースを開ける。
ティラン伯爵様のお屋敷の寮で住み込んで働いていた僕は、
荷物は全てそこに置いてあった。
ソレイユ家の寮で暮らすことになり、ずっと置きっぱなしだった荷物は、
エル様に言われて別の使用人さんが取りに行ってくれたみたいで、置いてある。
物が少ない、軽いスーツケース。
中にある小さなポケットに手をいれ、中に入っていたモノを取り出したら。
「いけませんシエル様」
取り出し久しぶりに対面を果たしたソレは、
あっけなくドクさんに奪われてしまった。