心に届く歌
「そんな傷だらけの体で暴れないでください。
今はゆっくりしてください」
「……返して…」
「シエル様……」
「返してください…それがなくちゃ、僕……」
辛く冷たく苦しく、光なんて差し込まない深い闇。
大袈裟かもしれないけど、僕はずっとそんな世界で生きてきた。
死にたいと思っていた日々の中、唯一見つけた一筋の光。
「お願いです……返してください…。
僕から光を、奪わないで……」
「シエル様」
「それは僕が見つけた唯一の光への鍵だったんです。
それがなくっちゃ……僕…」
ドクさんは抱きとめていた僕を、そっとベッドに座らせた。
そして僕の前で跪(ひざまず)き、微笑んだ。
「でしたら尚更返すことは出来ません。
シエル様には、また新しい光を見つけてもらわなくてはいけませんね」
「そんなものないっ……。
僕に光なんて、それしかないっ!」
「シエル様、自虐的になるのもいい加減にしなさい」
微笑みを消し、スッと眼鏡の奥の瞳を細め、僕を見つめてくるドクさん。
こんな冷たい瞳、この人も出来るんだ。