心に届く歌
「前々から思っておりましたが、あなたの自虐は激しすぎます。
もう少しご自分を大事にしてください」
「……無理です…」
「それはずっと、あなたが守るべき大人から暴力という卑劣な行為で、行動全てを支配されて来たからですか」
「……僕にとっては、それが当たり前です。
むしろ、今の現実こそが、非現実的です」
「非現実を、本物の現実に変える気は、あなたにはないのですか」
「……だってこの世界は、僕にとっては信じられないことばかりです。
生きてほしいと僕の頬を叩いた人も、
僕を親友だという人も、
僕に湯たんぽをくれる人も、
僕にあだ名をつけて明るく接してくれる人も、
僕を様付けする人も。
全部全部非現実的すぎて、信じろと言う方が無理ですっ!」
「それはわたくしも同じです」
「え?」
「わたくしも今の現実に戸惑う部分はとても多いです。
自分を否定するばかりで大事にしない人も、
わたくしがいた世界を非現実的だという人も、
ずっと誰にも守られて来なかった世界は、
わたくしにとっては戸惑い、信じられないことの方が多いです」
「それ、全部僕のことですよね……」
「ええ。
わたくしは信じられないのです。
シエル様が生きてきた世界も想いも苦しみも全て。
わたくしにとっては未知なる世界で、戸惑うことも信じられないことも多いです。
でも、わたくしはあなたを助け、見守り、支えると決めています。
信じられなくても、戸惑っても、わたくしはシエル様の傍にいます」
「……」
「ですからどうか、ご自分を否定しないで、大事にしてください。
自分が生きてきた世界も、
これから第2の人生として生きる世界も。
両方信じてください」
第2の人生を生きる。
エル様にもかつて言われたこと。
「……わかり、ました。
時間がかかると思いますけど」
「何時間でもかけて、悩んで受け止めて信じてください。
あなたが生きるべき世界を」
不安は残るけど、ドクさんの言葉は優しくてあたたかくて。
僕は頷いた。