心に届く歌
ぎゅっと膝を抱えながら時間はゆっくりだけど過ぎて行って。
気が付くと夜ご飯の時刻になっている。
僕は「部屋から出てはいけない」とエル様に言われていたけど、寮の入り口まで行くことにした。
予想通り、入り口にはシェフさんが立っていた。
「シーくん!」
「あれ?シェフさん夜ご飯は……?」
「それを言いに来たんだよ。
実は足りない食材があったんだ。
誰も手が空いている人がいないから、シーくん頼んでも良いかな」
「……」
いくらシェフさんの頼みだけど、出るなと言われている。
入り口まで来てしまったことでさえも駄目なはずだけど。
「僕、エル様に部屋から出るなと言われていて……」
「そうか……じゃあ、また別の人に頼むしかないな」
深く溜息をつくシェフさん。
僕は、気が付けば口走っていた。
「僕、行きます」
「え?」
「早めに戻りますし、エル様が気づいたら理由を話します。
それで良いですか?」
「……シーくんが良いのなら、頼んでも良いか」
「はい!」
僕はシェフさんから買ってくる食材がメモされた紙とお金を受け取る。
「シーくん。
お嬢様にバレたら言いなさい。
言っておくから」
「その時はよろしくお願い致します」
僕は預かったお財布を握りしめ、夕方の中心街へ走り出した。