心に届く歌
しかしドクは部屋にはいなくて、電話をかける。
でもドクも出ない。
留守番電話サービスに繋がったので、折り返し電話をするよう吹き込み、わたしは一旦自分の部屋に戻った。
今度、シエルのスマートフォンに留守番電話サービスに繋がるよう設定しようと決めて。
部屋に戻ったわたしは、アンスに電話をかけた。
アンスはすぐに出てくれた。
『は?シエルがいなくなった?』
「そうなの…。
どうしようアンス、行方知ってる?」
『知らねぇよ…。
てか、今日シエルひとりにしておくとマズいぞ?』
「どうして?」
『今日学校に、何でか知らねぇけど、
シエルが村出身だってことが書かれたA4サイズの用紙が教室にあったぽくて、
クラスメイト全員がシエルのこと知ったんだよ。
シエル、それで教室飛び出して、見つけたら
何でも良いから切るものが欲しいとか言っていて…。
ひとまず落ち着かせて早退させたんだけど…』
「切るものって?」
『カッターとかナイフとか斧とか鋸とか。
自分の手首切るつもりだったんだろうな』
「そ…そんなことあったの!?」
そうだ。
今日わたしは帰ってから寝ちゃって、シエルと朝しか話していない。
朝もわたしは出掛ける準備でバタバタしていたから、簡単な挨拶ぐらい。
『今シエルをひとりにするのはマズい。
早く探さねぇと。
俺も出来る限り探してみるから、エルちゃんも出来る限り調べてみて。
というか、シエルが行きそうな場所知らねぇの?』
「シエルが行きそうな場所…。
ノール村出身だけど、
絶対良い思い出がないから行くことなんてないだろうし…」
『そういや、シエルの両親って、今どうしているんだ?』
「シエルの両親は、警察に連れて行かれたはずよ。
ずっとシエルを虐待してきたから、
罪はだいぶ重いからこんな早く出られないと思う…」
『脱獄、とかねぇよな?』
「え?」
『この間テレビで実際の脱獄した犯人の再現ドラマやっていたから。
ふと思って』
「…あり得ない、と言いきれないわね」
『どう言うことだ?』
「シエルはずっと、あの両親の元で過ごしてきた。
警察にバレたなんて聞いたことないから、
シエルへの虐待を隠し続けてきたってことよね?
きっと頭良いはずだから、脱獄も可能だったり…」
『ちょっとエルちゃん調べられねぇ?』
「わかった。一旦切るわね」
わたしは電話を切り、電話帳の中からひとりの刑事の番号を見つけ、かけた。
今後シエルに何かあった時のために、と電話番号を交換しておいたのだ。
開口一番、わたしはシエルの両親の行方を聞いた。
『すみません、お伝えするのを忘れていました。
実は数日前、セレーネ夫妻は揃って脱獄しているのです。
見張っていた警官の持っていた警棒を奪っての逃走だったので、今指名手配中なのです』
「そんなっ…!
実はセレーネ夫妻の養子であるシエルが今行方不明なの!
電話も繋がらないから…。
早くセレーネ夫妻を見つけて!
シエルの身が危険だわ!!」
電話を終え、わたしはスマートフォンを両手で握りしめた。
学校で冷たい目をされて。
家に帰ったらボロボロになっていて。
わたしが少しでもシエルの話を聞いていたら…!
わたしは涙を飲み、アンスに再び電話をかけた。