心に届く歌
誰もが予想していなかった言葉。
それは少年も同じだったみたいで、目を見開いた彼は伯爵の腕をぎゅっと折れそうな手で掴んだ。
「申し訳ありませんでしたご主人様!
でも……でもっ…クビは困ります!!」
「ふざけたことをしてくれたものだ。
お前を雇ったのはわしだと言うのに、
わしを裏切ろうとしていたお前からまさか“評価を上げたい”と言う言葉を聞くとはな」
「そんなこと僕は一言も言っておりませんっ!」
「メイド長は長年わしに仕えてきた忠実なメイドだ。
嘘をつくような奴ではないとわしはわかっている。
お前はクビだ」
「ご主人様っ……ティラン様ッ!!」
「メイド長。あとは任せる。好きにしろ」
「承知致しました。ご主人様」
メイド長は「後で片付けに参ります」と頭を下げると、
絶望に染まった表情を浮かべる少年の腕を掴んだ。
一瞬少年の顔が歪むも、メイド長に続いて部屋を出て行った。
『承知致しました。ご主人様』
そう言ったメイド長の顔。
何故かニヤリと怪しく微笑んだのをわたしは見逃さなかった。
微笑んだ意味はわからないけど……きっと主人に似たのかな。