心に届く歌
「嫌だなぁ。
わしの方こそお礼を言わないといけないよ」
「え?」
「シエルくん座って」
僕は言われた通り、プランタン国王様の前に座る。
「初めてだったんだ。
村出身の国民とこうして話したのは」
「そうなんですか?」
「そう。
村で生まれて村で育った人がいるとは知っていた。
でも、実際に会ったことはなかった。
わしだけではなく、歴代の王は誰も。
見ることだってしなかった
きっと…受け止めたくなかったんだ。
自分達との差を、受け止めたくなかったんだ。
王は代々、この国が創立以来、現実から目を逸らしていたんだ。
見ていた現実は全て、中心街の恵まれている人達だけだった」
「……しょうがないですよ。
中心街と村の生活じゃ、差がありすぎる。
僕がもし、国王様の立場でも、同じことを思っていて実行していたと思います」
「本当はちゃんと、国民ひとりひとりを見つめる必要があったんだけどね。
貧富の差もちゃんと見つめて、対策をするべきだった。
だからねシエルくん。
言い方は悪いけど、キミはこの国にとって良い実験体だったんだ」
実験体……僕が?
「僕なんかが?
役に立つのですか?」
「キミはノール村出身だろう?
ノール村は村の中でも1位2位を争うほど貧しい地域だ。
実態を聞くことだって出来るし、
尚且つキミは少し人と変わった生い立ちの持ち主だ。
この国全てを知る実験体としては、申し分ないよ」
「……」
「キミをエルの執事にすれば、何かが変わる。
そう考えて、わしはイヴェールと相談した結果
キミを執事見習いとして特例で雇うことに決めたのだ」
「だから…」
ずっと不思議だった。
何故、僕なんかを執事見習いとして置いてくれたのか。
「昨日ドクくんから、キミが脱獄してきたご両親に誘拐紛いをされたと聞いて、不謹慎だがどんな感じなのか見に行ったのだ。
声を殺して押さえながら泣いているキミは、正直見ていられなかったよ」
「……」
泣くのは弱みだ。
絶対に他人に、人に弱みを見せるな。
そう言われて僕は育ってきた。
涙を見せたら、例え相手が両親であっても殴られた。