心に届く歌
「まぁでも…エルと出会ってゆっくりだが変わってきているようだね」
「…はい。
エル様には、本当に感謝しております」
あの人があの豪雨の中僕を助けてくれなかったら。
僕を見つけ出してくれなかったら。
きっとあそこで、僕は死んでいた。
大袈裟でも何でもない…本当にそう思う。
「…僕、両親からの暴力が終わった後、ずっとずっと自分のこと傷つけていたんです。
傷つけないと、生きて行けなくなっちゃって。
傷つけなかった夜は、不安で眠れないほどでした。
昨日も、本当は切ろうと思いました。
でも、切ろうとしたら、エル様の声が聞こえて。
あの方は、僕に初めて生きろと言い、僕に初めて切るなと言ってくれた人でした。
人って、本当に単純なんだなって思います。
誰かのたった一言で、救われた気分になれるから」
「その気持ち、わかるよ。
人って難しそうに見えて実は案外単純なんだよね。
わしも、何度イヴェールの言葉に救われたか」
「僕は、初めて僕に生きろや切るなと言ってくれた人に、生涯を捧げても良いと本当に思っています。
エル様がいなければ僕は確実にここにいない。
生きているかさえもわからないほどです。
どうせ最期には皆死ぬのだから、大切な人のために、僕は生きたいです」
「…シエルくん、大人だね」
「学校には1年しか通っていなかったんですけど、その間図書室に行く機会が多かったので、色々な本から学んだことが殆どですよ」
「シエルくん頭良いんだ?」
「頭良い…。
頭脳的に考えると、多分馬鹿です。
今の授業も、四苦八苦しながらアンスに手伝ってもらっていますから。
でも本当に頭良い人は、頭脳なんかじゃ決められない」
「どうしてそう思うの?」
「誰かと良い関係を築くのだって、頭を使いますし、上手く物事を進めるためにも頭を使う。
それが上手くいく人を、僕は頭良いのだと思います。
家族や友達が存在する人は、基本頭が良いと思っています。
頭良いなんて、頭脳ひとつで決められないんじゃないかなって」
「じゃあシエルくん頭良いね。
アンスくん、友達でしょ?」
「アンスが僕に話しかけてくれたので…。
僕自身は、頭良いとは程遠いです」
「これからシエルくんに大切な人が出来ると良いね。
いつか彼女とか作って結婚して、良い家庭築くのも良いね」
良い家庭…。
僕なんかに、築くことなんて出来るのだろうか?
「…頑張ります」
僕はプランタン国王様の部屋を出て、寮の部屋に戻ることにした。