心に届く歌
「♪
太陽と月が巡り合う時
そこに生まれるのは優しさ
♪」
静かに口ずさみながら、僕は廊下を歩く。
この歌を歌うと、何故かほっとする。
「♪
太陽と月が巡り合う時
そこに生まれるのは優しさ
♪」
「シエル!」
後ろから呼ばれ、振り向く。
にこにこ笑顔で立っているのは、エル様だった。
「前に聞いた時より声、大きくなったね」
「そ、そうですか?」
「うん。
もっと自信持って歌ってみてよ」
「はい…頑張ります」
僕らは並んで廊下を歩いた。
「そういえばその歌、その先はないの?」
「いえ…ここしか記憶になくて」
「題名は?」
「わからないです…気付いたら口ずさんでいて」
「不思議な歌だね?」
「この先知ってみたいと思うんですけど…。
色々歌の本など見ても、同じ歌詞が載っていなくて。
もしかしたら、誰かのオリジナルなのかなって…」
「誰かがシエルに贈った歌ってこと?」
「もしかしたら…。
その可能性は否定出来ないんですけどね…。
いつ覚えたのかわからないので、誰が僕に贈ったのか…」
「もしかして、シエルの実のご両親とか?」
僕は立ち止まる。
僕の実の両親…。
「そういえばシエルって施設育ちだよね?
ご両親はどうしたか知っているの?」
「いえ…。
確か…何だか傷だらけの男性が、僕を抱えてやってきたと聞いたことがあります」
「傷だらけの男性?」
「はい。
その人から僕を受け取ったのは施設の園長だったんですけど、
園長は僕が施設を出る数ヶ月前に病気で亡くなってしまって。
亡くなる直前に、僕は傷だらけの男性が運んできたのだよって教えてくれたんです」
「それだけ?」
「あと…この子を幸せにしてくださいって、何度も言っていたって」
「その傷だらけの男性は?」
「僕を預けた後、いなくなってしまったと聞いています。
園長曰く、傷だらけだったから生きている可能性は低いだろうって」
「園長かその男性が生きていれば、シエルのその歌、何だかわかったと思うのにね」
1度考えたことがある。
もしかしたら、その傷だらけの男性が、僕の父親なのかって。
僕を何かから庇って傷だらけになったんじゃないかって。
そんなこと…ないよね。