心に届く歌
メイド長と少年が出て行き、ティラン伯爵は振り向いた。
「申し訳ありません国王陛下。
クリーニング代はわしが払わせてもらう」
「お気になさらないでください、ティラン伯爵」
そう言うお父様の笑みは引き攣っている。
そりゃそうだ。
お父様が送った花瓶を“趣味の悪い”と言われてしまったのだから。
言ったことを忘れてしまったティラン伯爵は、座り込んだ。
「あの男は村人なのですが……全くとんでもないことをやらかしてくれました。
中心街出身のメイド長の方がよっぽど役に立つ」
ブツブツあの少年への文句を言うティラン伯爵。
これが“村人を雇いました”と自慢気に言っていた伯爵の本音か。
ブツブツ文句を言い並べる伯爵。
それを苦笑いで聞いているお父様。
そんなふたりを横目に、
わたしはあの少年を思い浮かべていた。
何故だか、すごく気になるのだ。