心に届く歌
「えっと……これで、良いんですか?」
「そうですそうです。物覚えが早いですね」
「そ……そうですか?」
1時間後やってきた家庭教師。
眠っていたシエルを起こし、今はわたしの部屋で勉強中。
物覚えが良いみたいで、何度も褒められ、慣れていないのかその度に聞き返しているシエルが面白い。
わたしの使う机に座り、真面目に勉強をするシエルを、わたしは眺めていた。
「シエルさんは本当に教え甲斐がありますね。
お嬢様とは大違いですよ」
嫌味のようにこちらを見る家庭教師。
勉強が苦手なわたしは、いつも怒られていたことを思い出す。
「でも……僕はエル様が羨ましいです。
僕もあんな風になりたいです」
シエルがこちらを向くも、恥ずかしいのがすぐに視線を戻す。
わたしもシエルの目標になってるのが嬉しい。
わたしのどこを目標にしているのかは謎だけど……。
「では、今日はこの辺にしておきましょうか。
シエルさん。
これからも勉強なさいますか?」
「出来れば学校に通って勉強したいです。
出して頂いている学費が無駄になってしまいますので。
でも……暫くはここでの勉強になりそうです」
「ここで勉強をなさるのであれば、いつでも連絡してください」
「……良いの、ですか?」
「ええどうぞ。
頑張っている生徒さんを応援するのが、わたくし家庭教師共の役目ですからね」
「……じゃあ、またお願いしても良いですか?」
「構いませんよ」
「ありがとうございます」
シエルが丁寧なお礼を言うと、家庭教師も満足そうに笑った。
しかし笑みは消え、わたしを見た。
「お嬢様もシエル様を見習って、しっかり勉学に励んでますか?」
「えっとわたしは……」
「即答出来ないということは、励んでいないのですね?」
「…………うぅ、ごめんなさい」
「課題を出しておきます。準備しますのでまた来ます」
家庭教師は部屋を出て行き、30分後に再びプリントを持ってやってきた。
「シエルさんにはこれを。
これをやっておけば、今日の復習になりますよ」
「ありがとうございます。使わせてもらいますね」
「お嬢様にはこちらを。
シエルさんを見習ってしっかりしてくださいね」
「…………はい」
シエルとわたしの扱いが違う……。
まぁシエルは頑張っているから、それ相応の対応なんだろうけど。
「エル様、もしよろしければ一緒に課題をしませんか?」
「え?」
「おひとりじゃ、つまらないでしょ」
シエルからの初めての誘い。
わたしは大きく頷いた。