心に届く歌
☆シエルside☆
「……何ですか、これ」
「歴史学。
この国の歴史を知ることが出来るの」
エル様がテーブルに置いた教科書を見て、僕は開いた口が塞がらなかった。
一緒にやろうと誘ってみたのは良いものの、
エル様と僕の勉強には天と地ほどの差があった。
見るもの全て、何が言いたいのかわからない。
改めて、エル様が将来この国を背負う存在だとわかる。
「いつぐらいからこのような勉強を……?」
「10歳ぐらいから、かな。
生まれてからずっと次期国王は決定だったからね。
本当はもっと大きくなってからが良かったんだけど、
これでも延ばしてもらった結果だから、これ以上延ばせないって言われて」
10歳……。
何も知らない僕と、やっぱり生い立ちが違うな……。
「ソレイユ王国、歴史ありますよね」
「あるわよ。
わたしが100代目国王なんだから。
20歳で代替わりだから、相当歴史は古いわよ」
「やっぱり……嫌な歴史もあったんですよね」
「そりゃあね……。
わたしが生まれてすぐぐらいは、戦争もあったみたいだし」
「え?」
エル様はページをめくり、僕に見せてくれた。
載っていたのは、モノクロの写真。
壊れた建物の写真だった。
「今はもう崩壊間近だったから取り壊されて、もうない建物よ。
戦争をした証拠ね」
「……勝ったんですか?」
「ええ。
ただ、隣の国は負けてしまって、滅亡したらしいわ」
「滅亡……そんなこともあるんですね」
「滅亡してしまった国は、ソレイユと親交があったみたいでね。
今でもその国が滅亡した日は、国全体で黙祷を捧げるのよ」
エル様は1ページめくる。
そこには、リュンヌ王国と刻まれていた。
「リュンヌ王国……?」
「その時滅亡してしまった、親交のあった国よ。
この人が、王様と王妃様。
ふたりが戦争で命を落として、統べる者がいなくなったから、消えてしまったの」
カラー写真で載る、ふたりの男女。
幸せそうな雰囲気なのに。
「歴史学はこういう目を瞑りたくなるようなことまで学ぶから、好きじゃないの。
本当はこんなこと言っちゃ駄目なんだけどね」
「……でも、目瞑りたくなりますよね…」
「瞑りたくなるけど、本当は瞑っちゃいけないの。
自分の国も他の国も、哀しみを知ってそれを乗り越えて今の国がある。
忘れちゃいけない歴史なのよ、こういうのは」
パタンと閉じるエル様。
その目には、揺るぎない決意があった。
「争い事は世の中から消えない。
だけど、少なくすることは可能だと思うの。
わたしは、国中が幸せだと思えるソレイユ王国を作りたい」
【太陽の国 ソレイユ】
教科書の表紙に黒字で書かれた力強い文字。
「わたしが、この国の太陽になる。
女性初の、国王としてね」
「…………」
「シエルは、そんなわたしを支える人になるのよ。良い?
わたしはあなた以外、許さないから」
「はい。
わたくしが、あなたの背中を精一杯押させて頂きます」
「その心意気よ、シエル」
僕は頷き、課題に取り掛かった。