心に届く歌






カリカリと、ペンを走らせる音だけが響く部屋。

不思議と心地良いと感じていると。





「へぇ、熱心なものだな」


「あ、アンス!?」




突然聞こえた声に、エル様が叫んで立ち上がる。

僕は集中していたので、ワンテンポ遅れて顔を上げた。




「アンス、来ていたんだ?」


「シエル、反応薄いな」


「どうしてアンスがこんな所にいるのよ」


「こんな所……酷いなエルちゃん。
シエルが休みだって聞いたから、見舞いに来た。
でも、風邪じゃなかったんだな」




アンスがテーブルの上に置いた袋の中にはいっていたのは、林檎。



「風邪の時には林檎だからな」


「僕風邪なんて引いていないよ?」


「元気そうで安心したわ」




ニカッと笑うアンス。

そういえば、最後に会ったのは僕が両親に半ば強制的に帰らされた日。




「アンス……あの時は、ありがと」


「良いって。もう大丈夫なのか?」


「…………うん」


「無理して頷かなくて良いって。
変な間(ま)がある方が違和感ある」




クスクスと笑うアンス。

僕らのやり取りを見ていたエル様が、説明してくれた。




「色々あったから、夜中も結構起きていることが多くてね~。
ここ最近眠れていないんだよね、シエル」


「…………ご迷惑をおかけします」


「ふ~ん。シエルも大変だな?……って、うん?」


「どうしたのよアンス」




首を傾げたアンスに、エル様が尋ねる。

アンスは確かめるように、ゆっくりとエル様に問うた。




「何で、エルちゃんシエルの睡眠事情知っているんだ?」


「え?」


「まさかお前ら……一緒に寝ている…とか、言わねぇよな?」




アンスが確信を突いた途端、顔をどんどん赤らめていくエル様。

対して僕は首を傾げた。




「そうだけど……?それが?」


「それがっ!?
お前それが言っちゃうわけ!?」


「え?何か可笑しい所でもあるの?」




正直エル様の隣は、寮でひとりで寝るよりよっぽど安心出来る。

決して僕を痛めつけたりしないとわかっているからだろうか?




「良いかシエル」



アンスは僕の隣に座り、ポンッと肩を叩いた。

エル様は何も言わず、真っ赤な顔を覆うばかりだ。




「年頃の男女がな」


「年頃?」


「今のお前らぐらいの年齢ってことだ。
つまりは10代後半。

そういう年頃の男女が一緒に同じベッドの中入るってことは、
世間では恋人しかやらねぇんだよ。

恋人でも何でもない男女が同じベッドは、いけねぇんだ」


「…………そう、なの?」





エル様が真っ赤になった理由が、わかった。




「…………そうだった、の?」


「同じ屋根の下暮らしている行為も、実は結構いけないことだ。
まぁシエルはワケアリだし、居候の身だからこれは良いとして。

同じベッドはマズいだろ……」





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