心に届く歌
「そういや俺も勉強教えてくれね?」
「良いわね。
皆でやれば早く終わるわ。
良いわよね?シエル」
「はい!一緒にやろうアンス」
寂しそうな表情を消し、パッと明るく笑うエル様。
僕も我に返り、ペンを再び走らせ始めた。
「アンス、これわかる?」
「どれ?……あーこれはだなぁ」
やっていると、エル様がアンスに尋ねる。
アンスはエル様が勉強する歴史学の問題集を見て、教え始める。
その光景を見ていると、ふと疑問が湧いた。
「中心街に住む人たちは、全員歴史学とか勉強するの?」
「え?
いや、俺はやらねぇよ?」
「歴史学は、趣味か王族しかやらないわよ」
「え?じゃあどうしてアンスが出来るの?」
「俺、歴史学好きだから。前者の趣味の方だな」
「面白いの?歴史学」
「面白いつーか……お祖父様が好きだったから教えてもらっているうちに、自分でもやり始めただけだ。
興味深いこともあったからな」
「興味深いこと?」
「ああ。
エルちゃん、ちょっと教科書貸してくれね?」
「良いわよ」
ペラペラめくったアンスは、あるページを見せてくれた。
そこにはさっきエル様に見せてもらった、リュンヌ王国の王様と王妃様が載っていた。
「ここが興味深いの?」
「個人的にだけどな。
エルちゃんはこのふたりに纏わる奇妙な事件、知っているか?」
「知らないわよ?」
「実はな、このふたりには子どもがいたって説があるんだ」
「子どもが?」
「ああ。
だがその子どもは戦争に巻き込まれて亡くなったと言われている。
奇妙なのはその先だ。
子どもがいるのは確かなんだ。
だけど、その子どもの遺体は見つかっていねぇんだ」
「じゃあ、亡くなったっていうのは?」
「長らくその生存が確認されていねぇから、亡くなったって言われているんだ。
だけどもしかしたら、その子どもは生きているかもしれないって説もある」
「確認出来る証拠はあるの?」
「ああ。ひとつだけな。
月の真珠がその証拠になる」
「月の真珠……?」
「リュンヌの王妃が肌身離さず持っていたネックレスだ。
紺色の紐に、真珠が5つほどつけられているそうだ。
だけど、リュンヌの王妃の遺体には、月の真珠がなかった。
旦那である王様の遺体にもな。
リュンヌの国民は総出で月の真珠を探したそうだが、一向に見つからぬままだ。
その上、遺体が見つかっていねぇ子どもの遺体ときた。
子どもに亡くなる直前託していても、可笑しくねぇだろ?」
「その説ありかも!
ところで、何で月の真珠なの?」
「ソレイユ王国が太陽の国って言われているの知っているか?」
「ええ。ここにも書いてあるわ」
エル様は教科書を閉じる。
表紙には【太陽の国 ソレイユ】と書かれている。