心に届く歌
「……こんな感じよ。
下手でごめんね……って、シエル!?」
鍵盤にカバーをかけ、蓋を閉じたエル様が立ち上がる。
僕はそこで初めて、自分が涙を流していることに気付いた。
「な、泣くほど感動した?」
「……はいっ…すごく良かったです…」
「俺は結構聞き慣れているけど、いつ聞いてもエルちゃんの音色は良いよな」
「本当?ふたり共ありがとう」
「にしてもシエル、泣き止め」
アンスが笑いながら袖で僕の涙を乱暴に拭う。
「やめてっ……濡れちゃうよっ」
「んじゃ泣き止め。な?」
僕は自分の指で涙を拭った。
「エル様」
「ん?」
「僕にまた、聞かせてください」
「ええ、良いわよ。
シエルが気に入ったのなら、何度でもね」
「はいっ!」
エル様がにっこり微笑む。
僕も、ぎこちない笑みを返した。