心に届く歌
「そういえば、あのノール村にアンスも一緒に行った日、
シエルに聞いたの。
ソンジュさんと何があったのって」
「シエルなんだって?」
「詳しくは話さなかったけど、裏切者だって」
「裏切者?シエルが?」
「それはソンジュさんも言っているの。
わたし、シエルに何かあった時のために、警察の人と連絡先を交換しているんだけど、その人が教えてくれたの。
ソンジュさんが取り調べで何を言っているのか。
詳しくは話していないらしいんだけど、シエルの名前を出した途端、悪魔や裏切者だってシエルのことを言っているって…」
「あの執事は?ベレイとかいうの」
「ベレイくんはソンジュさんに雇われた情報屋なの。
どうして情報屋を雇ったのかわからないんだけどね。
情報屋として出会ったふたりは、出会って以降主と従者の関係になって、今に至るらしいわ。
ベレイくんもシエルとソンジュさんの間に何があったか知っているみたいなんだけど、
詳しくは話さないで…黙秘を続けているみたいだわ。
シエルを鉄パイプで地下で殴っていた黒服の人たちも、
それぞれお金に困っている人で、
ソンジュさんやベレイくんにお金を積まれて目がくらんだ結果、
シエルを殴るに至ったみたいだから…。
詳しくは知らないみたいね」
「つまり、ソンジュとベレイの計画だったってことか?」
「多分ね……。
きっとティラン伯爵家での儀式を巡って、ふたりの間に何かあったのよ。
それをずっとソンジュさんは根に持っていて、
情報屋であるベレイくんを雇って、今回実行したんだわ」
「…情報屋、か」
アンスが顔をしかめる。
わたしはずっと考えていたことを話す。
「わたし、もしかしたら教室にA4サイズのシエルについての紙を教室に置いたのは、ソンジュさんやベレイくんかもしれないって思うの」
「ベレイが情報屋で、シエルの生い立ちを調べることが簡単に出来たからか」
「ええ。
ベレイくんはソンジュさんを崇拝しているみたいだからね。
ソンジュさんが頼んだら調べても可笑しくないわ。
現にシエルの生い立ちをソンジュさんは知っていたわ」
「シエルについて、何か新しくわかったことあったのか?」
「……シエルは、1年だけ村の学校に行っていたの。
それは知っていたんだけど…。
いじめられていたり、退学したことは知らなかったわ」
「いじめられていた、だと…!?」
「シエル、体に虐待の後あって、それを見たクラスメイトが、
『親にいじめられているのなら自分たちがいじめても良い』って言ったみたいで…。
ある時シエルの体に煙草を当てそうになったんだけど、
その様子がシエルの両親と重なって、
シエルがパニックを起こして、その人を突き飛ばしたんですって。
そうしたらその人が気を失って、周りから人殺しって言われて、
まだパニックだったシエルは周りの人も殴り飛ばして。
ほかの人は守ってくれる親がいたんだけど、
シエルに守ってくれる人なんていなくて…結果退学したみたいだわ」
「何だよそれ……理不尽すぎねぇ?」
「人が信じられなくなったのはその頃だってシエルは言っていたけど、
無理もないわよね……」
「……何で村って、いじめが起こるんだろうな」
アンスは俯き、両手で前髪をかき上げた。
「俺さ、前にいじめられている奴、見て見ぬふりしたことあったんだ」
「え?」
「中学生ぐらいの時、行事か何かで村に行く機会があったんだ。
村に住む子どもたちと関わろうって目的で学校にも行った。
周りの奴らは村の学校の雰囲気とかに耐えられなくて行ったけど、
俺は学校内を見学してた。
そうしたら、掃除ロッカーからドンドンって音がしたんだ」
ゆっくり思い出すように語っていくアンス。
初めて聞くアンスの話だった。