心に届く歌
「俺怖くなったけど、何だって思って開けてみた。
中には、超ボロボロになった男子がいたんだ。
今でも覚えてる。
埃が絡まった髪に、薄汚い衣服に、傷だらけの体。
傷からは血が出ている場所もあった。
だけど、目だけは酷く冷たいんだ。
いくつだか知らなかったけど、目だけはやけに冷たかった。
全てを受け入れて、認めている感じだった。
驚いている俺に、ソイツは言ったんだ」
アンスは一旦区切り、見知らぬ男子から言われたことを言った。
「『お兄さんは、ボクを殺してくれる』って」
「…………!」
「いくつだか知らねぇけど、すげぇビビった。
あんな冷たい目をした奴が、殺してくれるなんて普通聞くか?
戸惑っていたら、ソイツはどこかに行って、どうなったかわからねぇよ」
「アンス……」
「俺、急いで自分の家に逃げ帰った。
恵まれている自分が本当に嫌になった。
だから、学校でシエルに、何か切れるものがないかって聞かれた時、
その子のこと思い出した。
俺…その子のこと見て見ぬふりしちゃったから、シエルのことは救えたらって思う」
「……見て見ぬふり、なのかな…」
「合っているかわからねぇよ?
だけど、俺は何も言えなかったんだ。
生きろとも、助けようともしなかった。
だから…自己満足かもしれねぇけど、シエルは救いたい。
シエルが苦しんだら、生きろって教えたい」
「……その意気だよアンス。
アンスはシエルにとって、唯一タメ口で話せる人なんだから。
わたしの目が届く所だったら、わたしがシエルを救うし支えるけど、
わたしの目が届かない所はアンスに任せたい。
アンス、シエルのことよろしくね」
アンスはわたしを数秒見つめた後、ニカッと歯を見せて笑った。
「任せろ!!」