心に届く歌






「シエル」


「……だって」




シエルがアンスと目線を合わせる。

泣いてはいないけど、声は震えていた。




「……僕は、裏切ったんだよ、ソンジュさんを。
助けてって言った彼女を、救うことが出来なかったんだよ。

僕には心ってものがないんだよっ!」


「いきなり何言い出すんだ!」


「助けてって、ソンジュさんが僕に助けを求めたのに。
自分を助けてもらえなかったからってその手を突き放して。

心がないんだよ……僕に心なんて存在しない…」




わたしはそっと、自分を否定する言葉ばかり並べるシエルの頬に触れた。




「心が存在しないなんて嘘だよ。
本当に存在しない人は、今みたいに自分を責める真似なんてしない」


「……エル様…」


「シエルは心がある、ちゃんとした人間だよ。
もう少し自信持って?

シエルが傷つく姿は見たくないし、
シエルが自分を否定する言葉を言うのも嫌だよ」


「……エル様…!」




シエルが恐る恐る、わたしの手に触れる。

ほっそりとした、優しいぬくもり。




「大丈夫。
シエルはひとりじゃない。

わたしもアンスもいるよ。
シエルが嫌なものから全部守ってあげる。

わたしはシエルを信頼しているよ」




そっと抱きしめると、シエルはわたしの服をぎゅっと握った。




「……でも、裏切り者ってのは、本当なんです」




シエルが淡々と語りだしたのは、

想像するのでさえも苦しい壮絶な過去だった。






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