心に届く歌
全てが狂い始めたのは突然だった。
水がはいったコップをこぼしたら、いきなり殴られたのだ。
でも両親は僕を殴り、蹴りながら言った。
これは愛情であり優しさであり教育なのだと。
当たり前のことなのだと、両親は笑いながら言った。
僕はそれを信じてきた。
賞味期限ギリギリのパンを渡されてお腹を壊しても、
煙草の火を当てられても、
何度も気絶するまで殴られても蹴られても信じていた。
愛情であり優しさであり教育だと。
両親は傷だらけだった僕を見てある日気が付いた。
傷は負うものの、決して骨折などしないことを。
両親は大好きな賭け事のお金を稼ぐ目的で、僕を知り合いが営む工場で働かせることにした。
工場長は、優しくて真面目な人だった。
高学歴の社員に優しくし、たまにジュースなど奢って。
社員から慕われる良い人だった。
僕は「あの人良い人だよな」と言って笑う社員を見ながら、常々思っていた。
ああ、馬鹿だなって。
良い人でも優しい人でも真面目な人でもない。
そんなの表向きだ。
僕の前では、決して優しくないし、良い人でもない。
優しい人が、僕を殴ったり蹴ったりする?
良い人が、「やめて」と泣き叫んだたら給料を下げる?
給料が下がれば待っているのは両親の愛情。
僕は必死に荷物を運んだり、何度も指を切りそうになりながら機械を動かした。
全ては両親の愛情を受けるために…。
だって信じていたから。
両親が僕に与える暴力は、全て愛情なのだと。
両親は僕が好きだから、僕が必要だから、暴力を振るうのだと。
暴力がない生活など……僕にはあり得なかった。