心に届く歌
「……ッ…う……」
何十分経ったのだろうか。
僕の体は悲鳴を上げていた。
「これがあたくしたち使用人内の儀式…通称鉄パイプの雨よ。
ネーミングセンスは気にしないでね」
「……っ」
「10分後にこの地下室から上がってすぐにある厨房で、ミーティングを始めるわ。
遅刻したらまた儀式だから、よろしくね」
メイド長を始めとした使用人たちは階段を上がっていき、地下室には僕ひとりが残された。
鉄パイプの雨、か。
考えた人、天才かもしれない。
だってその通り。
鉄パイプが激しい雨のように体に容赦なく打ち付けられるのだから。
「……ミーティング、だっけ」
僕はゆっくり立ち上がり、ふらふらと長い鉄階段を上がった。
体は痛みに慣れている。
……本当、慣れっていうのは恐ろしい。
「……あら。セレーネは優等生ね。
初めての儀式後のミーティングに集まれたのはあなたが初めてよ」
「……ありがとうございます。頑張ると決めたので」
「では、ミーティングを始めるわ」
正直散々殴られた足で30分立つのは辛かった。
しかも、ミーティングと言いながら、ミーティングらしいミーティングをしたのは最初の5分ほどだけ。
残りは全て、国で起きた事件を面白おかしく語るだけ。
強盗が出て、「おれの方がもっと上手く盗める」と隣の執事服の男性が言っていたことは気にしないでおこう。
「では各自仕事場に散らばりましょう。セレーネはソンジュと行ってちょうだい」
「よろしくお願い致しますセレーネさん。ソンジュです」
「こちらこそ、よろしくお願い致します」
思えばここから、歯車は狂っていた?
でも、全部狂っていたのかもしれない。
僕の短い道のりは、全て狂っていた?
ソンジュさんは僕の1つ前に入った、同じく村出身のメイドだと教えてくれた。
「ノール村なんですか?寒くないですか?あそこ」
「凄く寒いですよ。でも慣れていますから」
「家の鍵とかアタシよくなくしちゃうんですけど、なくしたら大変ですよね。
だってあんな極寒の中外で待たないといけないんですから」
「ええ。だから僕は鍵をなくさないよう気を付けています」
鍵をなくしても持っていても、意味がない時はある。
極寒の中いくら鍵を持っていても、両親が中にいれてくれなければ持っている意味などない。
鍵なんて、両親の前じゃ全くの無意味と化す。
「1番の新人は、トイレ掃除をするんですよ。
新しく後輩となる新人が入ってきたら、窓拭きにランクが上がるんですよ」
「わかりました。でもトイレ掃除はどうやって?」
「簡単に説明しますね」
ソンジュさんは笑みを終始浮かべながら説明してくれた。
「終わったらメイド長を呼んでください。
あの人の許可がおりたら、今日の仕事は終わりですから」
「わかりました」
「執事長もいますけど、メイド長が使用人のトップなので。
よろしくお願い致しますね」
ソンジュさんはタオル片手に自分のランクアップした仕事場へ向かう。
僕はソンジュさんに説明された通り、トイレ掃除をした。