心に届く歌






次の日も、僕はトイレ掃除を任され、指導役のソンジュさんから陰湿な嫌がらせに合っていた。

説明不足なのは勿論、トイレ内をわざと水浸しにして僕の仕事を増やしたり。

嫌がらせが上手くいかず、メイド長にさっさとオッケーを貰った時は、ソンジュさんの仕事である窓拭きを押しつけられたりした。



ソンジュさんだけではない。

僕らの様子を見ていた他の使用人まで、僕に嫌がらせをするようになった。

僕が水浸しになった床を拭いているのを見て笑うソンジュさんを見て、

他の使用人たちも一緒に笑いたくなったみたいだ。

人は空気により、簡単に流されてしまうらしい。



ソンジュさんの嫌がらせによりなかなかオッケーが貰えないと、

その日の生贄は僕になる。

僕はずっと、ティラン伯爵様のお屋敷で働き始めてから、僕以外の使用人が生贄になった姿を見たことがない。

それほど僕はずっと、使用人たちのストレス発散道具になっていた。

豪雨はまだ、やまないらしい。




「セレーネ、入るわよ」



儀式を終え、部屋に戻って倒れこんでいた僕を訪ねてきたのは、メイド長。

狭い部屋に通すと、メイド長は切り出した。



「あなた、最近ご飯を食べていないそうじゃない。
おばさんたちがうるさいのよ、理由を聞いて来いって。
最近どうしたの」



使用人のご飯は、使用人とはまた別で雇われているおばさんたちが作っている。

だけど最近僕はそのご飯を食べず、お屋敷を出て少し離れた小さなお店でゼリーを買って食べていた。



「噂だけど、ゼリー食べているんですって?足りるの」

「……足ります」

「顔色も悪いし、隈だって酷いわ。寝ていないの」

「……寝てますよ」



最初ここに来て、ご飯を出された時、食べてすぐ僕は全部戻した。

それ以来、ご飯は食べられなくなった。

食べようとすると、思い出してしまうから。

賞味期限の切れたパンを食べ、酷い腹痛に耐えていたあの時を。



同時に寝ている時も思い出す。

嫌がらせが辛くて、儀式もあり体は疲れ切っているので休みたい。

でも、寝ようと目を閉じると聞こえてくる。

両親の僕を罵る声や、殴られたり蹴られたりする音などが。

それで眠気は一気に吹き飛び、長い夜を布団にくるまって震えて過ごすしかない。



そのせいなのかわからないけど。

頭痛や眩暈がその時かなり増えていた。

貧血だと知らない僕は、苦しくて辛くて仕方なかった。





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