心に届く歌
結局リフレッシュも楽しさも微塵もないまま僕は中心街に戻った。
義父の酒瓶で殴られ切られた額は酷く痛むし、
殴られすぎて変色した肌を隠すために長袖長ズボンを履いているけど、
空調が効いた電車の中では暑くてしょうがない。
「お帰りなさいセレーネ。ゆっくり出来たかしら」
メイド長が微笑む。
使用人寮で自分の部屋の扉を開けようとしていた僕は、軽く会釈を返した。
「準備が出来たら地下室に来なさい。儀式を始めるわよ」
「え?」
「あなたがいない間、皆ストレスが溜まって辛いのよ。
早くストレス発散道具になりなさい」
「……っ」
「早くしなさいね。遅くなったら儀式はますます酷くなるわよ」
僕は寮の部屋に入り、ガタガタと震えた。
家に戻ってあんな痛くて辛い思いをしてきたのに、また同じような思いをしなくちゃいけないの?
「やだっ……誰か…助けて……」
でも、誰が僕なんかを助ける?
引っ込み思案で、消極的で、口下手で、何もできないクズを誰が助ける?
「……頭痛い…ふらふらするっ……」
辛くて行きたくない。
だけど、行かないと儀式の度合いは酷くなる。
僕はゆっくり立ち上がり、ゆっくりゆっくり地下室へ向かった。
「遅かったわね、セレーネ。儀式の度合いを高くするわよ」
その日の儀式は、意識を失うかと思った。
だけど失うわけにはいかなかった。
生きたいと、まだ思っていたから。