心に届く歌
眠れない夜を越し、嫌がらせを受け、失敗だと言われ儀式を受け、ゼリーだけを少し食べて、また眠れない夜を越す。
そんな日々を繰り返していたある日。
「セレーネ、これを持ちなさい」
やっと水浸しになったトイレの床を拭き終え、メイド長にオッケーを貰って地下室へ行くと。
メイド長から鉄パイプが渡された。
「ソンジュがご主人様の部屋に水をこぼしてしまったの。
今日の生贄はソンジュよ」
「…………」
「命拾いしたわね、セレーネ」
地下室に入ってきたソンジュさんは、怯えたような目をしていた。
僕はあんな怯えた目、浮かべたことなんてないはず。
浮かべるものなら、即座に両親の拳が飛んできたであろうから。
「本当に申し訳ありませんでした。
謝ります…土下座もしますから、生贄だけはしないでっ……」
初めて見る、僕以外の使用人が生贄になる姿。
誰しも、生贄にはなりたくないんだ。
「謝っても土下座してもお願いしても、無駄よ。
さ、用意して。セレーネも」
僕は鉄パイプをぎゅっと握る。
冷たい、初めての鉄の感触。
「始め!!」
耳を塞ぎたくなるような、豪雨の音。
ソンジュさんの空間を切り裂くような悲鳴。
僕は鉄パイプ片手にガタガタ震えていた。
殴るなんて……デキナイ。