心に届く歌
部屋でガタガタ震えながら、手首を何度も切った。
切る以外、逃げ道なんてなかったから。
「助けてっ……誰かぁっ……怖い怖いっ…」
あの両親と同じになるなんて絶対嫌だ。
誰かを傷つけて生きる道なんて嫌だ。
でも、誰に助けを求めれば良いの。
メイド長だって僕の傷に気づいているはずなのに助けてくれない。
助けを求めて拒否されたらどうしよう……。
「セレーネ、入るわよ」
「っ!」
僕は急いで切りつけた手首をタオルで隠す。
タオルは真っ白だったけど、いつの間にか真っ赤に染まっていた。
それほど僕は血を流していたとわかる。
「喜びなさいセレーネ、素晴らしいことだわ」
「何が、ですか……?」
「ご主人様より帰省の許可が下りたわ。本当優秀ね」
「……また、ですか」
「ええそうよ。思う存分リフレッシュしてきなさい」
リフレッシュ?
そんな意味なんて僕にはない。
帰省なんて、疲れに行くようなもんだ……。
でもメイド長の意見に逆らったら生きていけない。
メイド長の命令は絶対だから。
さすが、ティラン伯爵様のお気に入り。
帰りたくないといくら僕が願っても届かない。
だからといって寮に居座ることもしたくない。
戻ってもここにいても、殴られるのは変わらない。
僕のストレス発散道具としての価値は、変わらない。
ない、ない、ない。
僕の全ては、何もない。
空っぽな、心が冷えて朽ちたクズなんだ。