心に届く歌
コンコンコン、とノックをする。
小さすぎたかな、と思ったけど、中から「遅いぞ!入れ!!」とティラン伯爵様の声がする。
相当なお怒りなのか、それとも酔っぱらっているだけか。
もう1度強く目を瞑り、僕は応接室に入った。
「……失礼致します」
初めて入る、応接室。
真っ赤な顔でイラついた様子のティラン伯爵様。
テーブルの上に置いてある、ウィスキーのボトルとグラス。
ティラン伯爵様と対面して座る、プランタン国王様。
隣には、あのテレビで観た時よりも立派になったエル王女様がいた。
「……何故貴様が運んできた」
ティラン伯爵様が怒っている。
ガタガタと体が寒さなのか恐怖からか震え上がる。
「わたしはメイド長に頼んだはずだ」
「も……申し訳…」
「謝らなくて良い。
国王陛下と王女様を待たせているのだ、早くしろ」
「しょ…承知致し……」
「さっさと置いて出て行け。
ここは貴様が入れるような場所ではない」
謝ろうとしては遮られ、
承知しようとしたら遮られた。
ミスを犯す前に、僕は早く応接室を出よう。
そう決め、僕はテーブルに近づいた。
ソーサーを国王様の前に置き、その上にティーカップを乗せる。
立ち上がって、音を立てないよう歩き、王女様の前にも同じようソーサーを置きカップを乗せる。
再び入口の方に戻り、クッキーが乗ったお皿を置いた。
よし。大丈夫だった。
そう思った矢先だった。
グラッ
「……ッ!」
突然グニャリと視界が歪み、倒れ込みそうになる。
倒れそうになるのはこらえたけど。
ガチャンッ
「熱ッ!!」
「お父様!」
僕がふらついたことによりカップが揺れ、国王様の膝に紅茶をかけてしまった。
そこで歪んだ視界は元に戻り、今の状況を理解する。
僕はお盆を抱えたまま、ガタガタ震えるしかなかった。
何で。
何であの時に眩暈が起きたの。
どうして、どうして、どうして……。
「謝れ!主人命令だ!謝れ!!」
ティラン伯爵様が狂ったように叫んでいる。
もう、終わりかもしれない。