心に届く歌
僕の最悪な予想は当たった。
見事に、当たってしまった。
「貴様は、今日限りでクビだ」
裏切ってほしかった。
この時ばかりは。
だけど、ティラン伯爵様は裏切ってはくれなかった。
こんな時だけ裏切らないなんて。
「申し訳ありませんでしたご主人様!
でも……でもっ…クビは困ります!!」
クビになったら、何されるかわからない。
両親は勿論、殴られる。蹴られる。
今までよりも酷い仕打ちを受けるかもしれない。
そして、ティラン家で働く使用人の掟の冊子に書かれている、辞める時。
辞める時にはどんな仕打ちが待っているか。
やめて。お願い。クビにしないで。
良いことなんて待っていないから。
「ご主人様っ……ティラン様ッ!!」
何度名前を呼んでも、ティラン伯爵様がクビと言ったことを撤回することはなくて。
僕はメイド長に腕を引かれて応接室を出た。
「ヴ……き、もち……わるっ…いです……」
恐怖と恐怖と恐怖と恐怖で。
僕の全てが引っかき回されたようにぐちゃぐちゃで。
吐き気は朝より何十倍も膨れ上がっていた。
「ごめんなさ……トイレ行ってきま」
「駄目に決まっているでしょう。最高の儀式が待っているんだから」
鉄パイプの雨と称された儀式。
辞める時、それは比べ物にならないぐらいの豪雨と化す。
だから使用人の離職率はかなり低い。
誰しも豪雨を受けたくないから。
「というか、本当恐ろしいほど上手くいったわね」
黒髪を手でサッと掻き上げたメイド長は、気持ち悪いほど微笑んでいた。