心に届く歌
「本当はあんたほど面白い生贄は今まで存在しなかったから、
クビにするの勿体ないなぁって思ったんだけど。
最近はとても煩わしくなってしまったの。
だってご主人様が、あたくしよりあんたを気に入ってしまったんだもの」
メイド長は笑うのを止め、僕を睨みつけた。
「ご主人様に気に入られるのはあたくしだけで良い。
気に入られるためだけに、あたくしはご主人様に全てを捧げたの。
言葉通り、身も心も全部、仰せのままに捧げたの。
それなのに、最近はあんたの方が気に入ったなんて言われて。
ご主人様に気に入られるのは、あたくしだけで十分」
……まさか、僕に運ぶよう命じた本当の理由って。
「あたくしの考えたシナリオ通りにいってくれて、本当助かったわ。
あんたの体調が悪いのも気付いていたから、利用出来たしね。
今日ばかりはお礼を言うわ、セレーネ」
ご主人様に気に入られてしまった、僕を排除するため。
だから、面倒だとうわべの理由をつけて、僕をクビにした。
自分の身も心も捧げた人物の心から、僕を消すために。
「……んなっ…」
そんな、そんな、そんな。
そんな自分勝手な思いだけで、僕は全てを失ったのか。
僕にこれから待っているのが、血だと知らずに…。
「さて、最後の儀式を始めるわよ。
時間はいつもより長い30分だっけ?
ふふ、思いっきり楽しんじゃうわよー!」
……生きたくなんて、ない。