心に届く歌
「……俺、ちょっと気になったんだけど」
警察署の人に任せ、アンスとの帰り道。
近いため徒歩で来たわたしは、隣を歩くアンスの声に振り向いた。
「何でいきなり、全部言ったんだろうな?」
「……あのふたりが、本気で相手を大事にして好きでいたからでしょ」
「恋愛で気持ちってそんな変わるものか?」
「結構単純よ、人って」
「そうかー?」
「単純って言っちゃ失礼だけど、わたしは単純だと思うわ。
シエルと一緒に暮らしていれば尚単純だと思うわね」
「何でそう思うんだ?」
「シエルと暮らし始めて月日が経って、日に日にシエルが少しだけど心を開いているってわかるのよ。
ずっと人からの優しさに欠けていたシエルが変わったのは、人のお蔭だと思うわ」
「人は人を傷つけるけど、人を癒すことだって出来る」
「誰かの名言?それ」
「俺の名言」
「何それ」
わたしはクスッと笑う。
でも、アンスの名言はその通りだと思った。
「固くどんなに閉ざされた心だって、いつかは開くものよ。
だからわたしは思うの。
人って案外単純ねって」
「複雑そうに見えて単純か……良いなそれ」
「完全に開かせるには時間がかかると思うわ。
だけど、絶対にシエルの心は全部開くはず。
わたしがシエルを幸せにして見せる」
夕日が輝く空をわたしは見上げる。
もうすぐで、夏かな。
「……エルちゃんさ、俺と約束しねぇ?」
立ち止まったアンス。
わたしは数歩先に行っていたけど、振り向いて首を傾げた。