心に届く歌
☆エルside☆
「シエル、ただいま」
「お帰りなさいエル様」
「よっシエル」
「アンスも来てくれたの?」
「一緒にエルちゃんが夕飯どうだって。
お言葉に甘えて、今日は一緒に夕飯食べることになったぜ」
「賑やかになりそうだね」
シエルの目はだいぶ腫れが消えた。
近くには丸まったタオルが置いてある。
ずっと冷やしていたのかな。
眩しい笑みを浮かべるアンスと、ぎこちなく笑っているシエル。
そんなふたりを見ていると、何故か胸がキュッと苦しくなった。
さっきアンスと話したからなのか、シエルとの間に壁がある気がする。
越えられない、壊せない身分の壁が。
「……そういえば、僕、学校に行こうと思うんだ」
シエルが切り出したのは、夕飯を3人で囲んでいる時だった。
「大丈夫かよ」
「平気。アンスがいるから」
「シエル……」
「大丈夫ですよエル様」
シエルはカーテンが閉め切られて見えない窓のほうを見た。
「……さっき、夕焼けが綺麗だと思ったんです」
「…夕焼けが?」
「はい。初めて思いました。夕焼けが綺麗なんて」
「確かに綺麗だけど、改めて言う奴は少ないだろうな。
夕焼けは当たり前のように夕方になれば頭上に現れるから」
「うん…僕も、あんな夕焼けが綺麗なんて思わなかった」
「どうして、夕焼けが綺麗なんて思ったの?」
「……エル様とアンスが、僕の話を聞いてくれたから」
シエルが少しだけ前髪を上げる。
綺麗なふたつの黒目に、わたしとアンスが映った。
「……ありがとう、ふたり共。
肩の荷が下りた感じで、今凄くスッキリしているんだ。
ふたりが僕の話を聞いてくれたからだよ。
本当に、ありがとう」
わたしたちは同時に首を振る。
共通の思いだから…シエルが幸せになりますようには。