心に届く歌
「夕焼けが綺麗だなんて思えたのも、ふたりのお蔭だよ。
ふたりがいなくちゃ、夕焼けが綺麗なんて思えなかった。
ありがとう」
「そんなに礼ばかり言うな。照れるだろ」
「でも気持ちは言葉にしないと伝わらないから」
「かっこつけるな!」
アンスが嬉しそうに笑って、シエルの頭を撫でくり回す。
シエルはぎこちなく笑いつつ、前髪を強く押さえていた。
「……聞いても良い?シエル」
「何ですか?」
「…あなたは一体どうして、そんなに頑なに前髪を上げようとしないの」
シエルは黙り込む。
前髪の件に関しては、変わらずガードが堅いらしい。
「……上げないって、決めているんです」
「シエル…」
「絶対、これだけは上げること出来ません…ごめんなさい」
「謝らないでシエル。
誰にだって触れてほしくないことぐらいあるわ」
「……上げる機会があるのなら…それはきっと、僕のサイゴです」
「最後?」
「はい……僕が、死ぬ時です」
最後ではなく、最期。
シエルは何事もなかったかのように、顔を上げてご飯を食べ始める。
わたしとアンスも、無言で食べ始めたのだった。