心に届く歌
「わたしたちが生まれてほんのすぐぐらいに戦争があったのよ……」
教科書を指さしながら説明していく。
教えるプロじゃないから不安だったけど、シエルは頷きながらノートにまとめていっていて。
時折質問してくるので答えると、嬉しそうにしているので、不安はすぐに消え去った。
『コンコンコンッ』
「あら誰かしら、どうぞー」
説明が一段落したのでお茶を飲みつつ休憩していると、ノック音が聞こえる。
入ってきたのは、お母様だった。
「あらお母様、久しぶりね」
「久しぶりエルちゃん、シエルくん」
「お久しぶりです、イヴェール王妃様」
立ち上がり恭(うやうや)しく頭を下げるシエル。
お母様はふふっと笑った。
「シエルくん、似合ってきたわね。執事」
「本当ですか?」
「ええ。
エルちゃんの執事に勿体ないぐらい素敵よ」
「ありがとうございます王妃様」
娘のわたしでさえも滅多に頭を撫でないのに、
お母様はシエルの頭を撫でて笑う。
シエルもしっかりお母様を見上げ、ぎこちなく笑い返していた。
「あら、歴史学の勉強?」
「そうよ。
シエルが学びたいんですって」
「あら……」
開いてあった教科書を持ち上げ、見つめるお母様。
書かれているのは親交のあったリュンヌ王国についてだ。