心に届く歌
彼の今にも折れそうな手足には、無数の包帯が巻かれていて。
それのどれもに血が滲んでいた。
包帯の隙間からは、青黒い痣らしきものも見える。
『出血も多量で、本当ボロボロの状態でした。
よく生きているなと、素直に感心してしまうほどです』
『これは……故意?』
『ほとんどが故意だと思われますね。
ですがここの部分を見てください』
ドクが示したのは、左手首。
包帯が巻かれているのは変わりないのに、血の滲み具合が他と違う。
真っ白な包帯が、ほぼ真っ赤に染まっていた。
『ここの傷が1番酷く、他と形状が違いました。
もしかしたら……故意ではなく自分でやった可能性があります』
『…………』
何も言えなかった。
数分黙り込んだまま、わたしは左手首をジッと見つめた。
そして……ある決心を固めた。
『ドク、彼をわたしの部屋まで運んでくれるかしら』
『どうなさるおつもりで?』
『彼を……わたしが助けるわ』
彼は村出身だと、ティラン伯爵が言っていた。
何があったのかわからないけど、故意につけられた傷があると言うことは、良い境遇じゃない。
彼と出会い接することで、わたしの中で何かが変わるかもしれない。
下手したら……国さえも。
『わたしが彼を、助けるわ』
揺るぎない決心を、わたしは固めた。