心に届く歌
「お父様良いかしら?」
ノックもしないで入ると、そこはちょっとした戦場だった。
「国王様!○○新聞から話を聞きたいと……!」
「まだ調べ中だと言ってくれ!」
「イヴェール様!電話でも良いからお話をと!」
「今手が離せないからと言ってちょうだい」
お父様・お母様、それに数人の執事とメイドが、電話機を片手に話している。
その間も電話は何度も鳴り響いて、出ることが出来ないのが多い。
「……あらエルちゃん」
「お、おはようお母様……」
「おはよう。
あなたの話は落ち着いてから聞くから、部屋で待機しておいてちょうだい。
誰か!
エルちゃんやシエルくんの話を聞きたいという人が現れても、
絶対通さないよう全員に伝えておいてくれる?」
「承知致しました!」
わたしは部屋に戻ることにした。
わたしが来ても、ただ邪魔になるだけだから。
「けほけほっ、こほっ」
部屋の扉を開けると、ベッドの上でシエルが咳き込んでいた。
「シエル……おはよう、大丈夫?」
「けほっ……おはようございます…こほっ」
「額触れるね?」
こくりと頷いたのを見て額に触れると、何だか熱い。
わたしは体温計を持ってきてシエルに渡して計らせる。
体温計に出た数値は、37度6分。
「昨日微熱で外出ちゃったからかな……」
「けほっ、ごめんなさい……」
「良いよ謝らないで。ゆっくり寝てて」
「はい……けほけほっ、こほんっ」
冷たいタオルとか持ってきた方が良いかも……。
わたしは部屋を再び出て、厨房に向かってタオルと水をはった洗面器を受け取った。
「言われたら運びましたのに」とシェフに言われたけど、わたしは首を振った。
何だか今は……誰かに頼ろうと思わなかったから。
「シエル、タオル乗せるね」
「けほっ……ごめんなさい……」
よく搾ったタオルを額に乗せる。
わたしはベッドを背にして座り、お母様たちが来ると言っていたので待った。