心に届く歌
『コンコンコンッ!』
「失礼致します!イヴェール様!」
少し激しいノック音。
イヴェール様は「エルちゃんいないけど良いわよね」と入るよう言った。
入ってきたメイド長さんは、かなり焦っていた。
「た、たたた大変です!」
「どうしたの」
「つ、つ、…月の真珠が見つかりましたっ!」
…………は?
つきの、しんじゅ?
だってそれは……僕が似たようなものを…。
確信はないけれど……特徴が合っている……。
「月の真珠って……エテが身につけていた?」
「そうです!」
「じゃあ……見つかったの?リュンヌの王子も」
「リュンヌ王国の王子かはわかりませんが……恐らくは」
「誰……誰なの?」
「プーセ・クザン様です!」
……プーセさんが、月の真珠を?
どうして今まで黙っていたんだ?
「こんにちはイヴェール王妃様」
「プーセくんっ」
メイド長の後ろから顔を出したのは、当の本人。
プーセさんは僕を見てニヤリと笑うと、ポケットから手を出し、同時に出したものをイヴェール様に見せた。
「ご確認願えますか?王妃様」
プーセさんが持っているのは、紺色の紐に通された5つの白い玉。
僕が持っているのと全く同じものだった。
「…………」
イヴェール様はじっくり見つめ、プーセさんの顔も見つめた。
暫くプーセさんの顔を見つめ続けたイヴェール様は、ゆっくり頷いた。
「月の真珠よ……間違いないわ」
「そうですか。では、許していただけますね?」
「何を?」
「ご息女・エル様との婚約を、正式に認めてくれますね?
婚約者なんて曖昧な関係ではなく、正式に夫として」
イヴェール様は言っていた。
エル様と、もしリュンヌ王国の王子様が生きていたら、結婚させるつもりだったと。
「…………お父様と、それからエルちゃんとも相談してみるわ」
「良かった。
前向きなご検討、お待ちしておりますね?」
「聞いても良いかしら、プーセくん。
エルちゃんとシエルくんの写真を送ったのはあなたよね?」
「ええそうです。
思い知らせてやりたかったのですよ。
村人が、王族と結ばれるわけないと………ね」
喉をぎゅっと絞められたかのように苦しくなる。
喉を触ってもそんなことはないのに。
王族のエル様に相応しいのは、僕みたいな奴じゃなくて、プーセさんみたいな人?
貧乏人がお金持ちと結ばれるはずなかった?
……そんな当たり前のことに、今更気がつくなんて……。
「し……し……失礼致しますっ…」
僕はエル様の部屋を飛び出した。
こんな苦しいのなら……恋なんて、知りたくなかった。
ぬくもりも優しさも……全部全部、知らないままでいたかったよ…!