心に届く歌






「一旦シエル様を運びましょうか…」



熱が上がってしまったシエルはぐったりとしていて。

ドクが背負い、「どこに運びましょうか」と聞いてくる。



「わたしの部屋…じゃなくて、寮の部屋に運んでくれる?」

「え?」

「あなたに話しておきたいことがあるの」



ドクは頷き、一緒に寮に向かった。

ベッドに寝かせ、わたしはドクに手を出した。



「冷却シート、良いかしら」

「え?でもシエル様は前髪を上げたくないという理由で冷却シートは」

「わたし……知っちゃったから。シエルが前髪を上げない理由」



ドクは驚きながら、わたしに鞄の中にある冷却シートを渡してくれる。



「シエル。シエル。聞こえる?」

「っ……エル、さ、ま……」

「前髪上げるね。大丈夫、ドクに見せないから」



シエルは頷き、辛そうに瞼を閉じる。

わたしは自分の体でシエルの額を隠すようにして、冷却シートを貼った。



「冷たい……気持ち、良いです」

「良かった」

「……エル様…お願いが……」

「良いよ」



わたしはシエルの手を握る。

シエルは少し口の端を上げると、弱く握り返して眠りに落ちた。



「……何です?随分仲良くなっておりますね?」

「ドク、わたし……シエルが好き」



ドクはさほど驚いていなかった。

ただ口元に柔らかな笑みを浮かべていた。



「何よ…全部知っていたのかしら」

「ええ。
わたくし、それほど鈍感ではありませんから」

「まぁ小さい頃からわたしを見ていたんだから、鈍感じゃないわよね」



迷惑をかけたくなくて、あまりお父様とお母様に本音を言えなくて。

代わりに少し我が儘を言ったり、無茶なことをして使用人を困らせていた。

ずっとそんなわたしを見てきたドクは、「素直になりなさい」と怪我が絶えなかったわたしに手当てをする度言ってきた。

わたしをずっと見てきたドクだから、誰よりも早くわたしの気持ちに気づいた。




「わたしはこれから、国民と戦う。
大袈裟なことはしないで、わたしたちのことを納得してもらう。

月の真珠をプーセが持ってきたなんて、そんなこと知らない。

わたしが好きなのは、ただひとりシエルが好きなの」

「お嬢様が思う通りにしてください。
わたくしはそれを、陰からずっと応援しておりますから」

「……わたしたちのことを認めてくれる?って言う前に、応援されちゃったわね」

「わたくしは最初から認めておりますよ?
ずっとずっと応援してきましたよ」



わたしは一生、この有能で優しい医者兼執事に勝てないのだろう。




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