心に届く歌
-11-







☆シエルside☆




【ソレイユ王国次期国王、エル・ソレイユ様、
月の真珠を持っているプーセ・クザン様と正式に婚約を発表!】



朝。

テレビで天気予報を欠かさず見ている僕の目に飛び込んできた、トップニュース。

その後やった天気予報は、全く頭に入ってこなかった。



「……届かない」




僕の思いはもう、エル様に告げることは出来ない。

自分で選んだ道のはずなのに、後悔している僕は未練タラタラだ。



「……僕は執事としてやるしかない」



大きく深呼吸をして、立ち上がる。

昨日はあんなにも高熱で苦しんでいたというのに。

もう熱は下がっている。

僕は執事服に着替え、寮を出た。



途中出会ったおじさんも、

すれ違うメイドさんも執事も、

食材を厨房へ運んでいたシェフさんも、

ただ「おはようございます」とだけ言って通り過ぎていった。

だから僕も変わらず、「おはようございます」と返して歩いた。



僕の気持ちが荒れ狂っていても。

日常は変わらず廻っていく。

その当たり前の現実が、何故だか酷く苦しかった。




「……はぁはぁっ…」




息が苦しくなり、僕は廊下に座り込む。

熱は下がったはずなのに。

息が上手く出来ない。




「ちょっと、あなた大丈夫?」

「大丈夫です……っ!?」




背中をさすってくれた人の顔を見たとき、僕は言葉を失った。

声をかけてくれたのは、エル様だった。



「体調管理には気をつけなさいよね。それじゃ」



呼吸が普通に出来るようになり、立ち上がると。

エル様が無表情のまま、立ち去ろうとする。



「あのっ……!」

「何かしら。手短にしてくれる?」



振り向いたエル様は、やっぱり無表情で。

いつものエル様とは別人に見えた。



「あっ……ありがとう、ございました」

「気をつけなさい。
ここでの生活が苦しいなら、辞めることね」



冷たい言葉に、疑問しか湧かない。

どうしてこんなに…冷たくなってしまった?

エル様はもっとあたたかくて柔らかい人だった。



「待ってくださいエル様っ……」

「言ったでしょ?
わたしは忙しいんだから、行くわね。

結婚式は1か月後に控えているんだから」



エル様はそのまま行ってしまった。

僕はその場に取り残された。



「……仕事、しなくちゃ」



僕はエル様と反対の方向へ歩き出す。

仕事をして、全て忘れたかった。





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