心に届く歌
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☆シエルside☆
【ソレイユ王国次期国王、エル・ソレイユ様、
月の真珠を持っているプーセ・クザン様と正式に婚約を発表!】
朝。
テレビで天気予報を欠かさず見ている僕の目に飛び込んできた、トップニュース。
その後やった天気予報は、全く頭に入ってこなかった。
「……届かない」
僕の思いはもう、エル様に告げることは出来ない。
自分で選んだ道のはずなのに、後悔している僕は未練タラタラだ。
「……僕は執事としてやるしかない」
大きく深呼吸をして、立ち上がる。
昨日はあんなにも高熱で苦しんでいたというのに。
もう熱は下がっている。
僕は執事服に着替え、寮を出た。
途中出会ったおじさんも、
すれ違うメイドさんも執事も、
食材を厨房へ運んでいたシェフさんも、
ただ「おはようございます」とだけ言って通り過ぎていった。
だから僕も変わらず、「おはようございます」と返して歩いた。
僕の気持ちが荒れ狂っていても。
日常は変わらず廻っていく。
その当たり前の現実が、何故だか酷く苦しかった。
「……はぁはぁっ…」
息が苦しくなり、僕は廊下に座り込む。
熱は下がったはずなのに。
息が上手く出来ない。
「ちょっと、あなた大丈夫?」
「大丈夫です……っ!?」
背中をさすってくれた人の顔を見たとき、僕は言葉を失った。
声をかけてくれたのは、エル様だった。
「体調管理には気をつけなさいよね。それじゃ」
呼吸が普通に出来るようになり、立ち上がると。
エル様が無表情のまま、立ち去ろうとする。
「あのっ……!」
「何かしら。手短にしてくれる?」
振り向いたエル様は、やっぱり無表情で。
いつものエル様とは別人に見えた。
「あっ……ありがとう、ございました」
「気をつけなさい。
ここでの生活が苦しいなら、辞めることね」
冷たい言葉に、疑問しか湧かない。
どうしてこんなに…冷たくなってしまった?
エル様はもっとあたたかくて柔らかい人だった。
「待ってくださいエル様っ……」
「言ったでしょ?
わたしは忙しいんだから、行くわね。
結婚式は1か月後に控えているんだから」
エル様はそのまま行ってしまった。
僕はその場に取り残された。
「……仕事、しなくちゃ」
僕はエル様と反対の方向へ歩き出す。
仕事をして、全て忘れたかった。