心に届く歌






寝ようと目を瞑るも、一向に眠れない。

目が冴えてしまっている。




「……お水でも飲もうかしら」



立ち上がって気が付く。

水がこの間なくて汲んだのは良いけど、ポットをシエルの部屋に置きっぱなしにしてしまったことを。

しょうがない…厨房まで取りに行こう。



部屋を出て、厨房まで行き水を貰う。

朝食の仕込みをしていたという新人シェフが、「ご婚約おめでとうございます」と言ってくれたけどちっとも嬉しくない。



水を飲み歩いていると。

私服姿のメイドたちが廊下で立って話していた。



「でも本当残念よねぇ」

「ええ、とても良い方だったから残念だったわ」

「お嬢様に何て言うつもりかしらね?」



わたしがいると気が付かず、話すメイドたち。

ふとその会話が、ティラン伯爵の家で聞いた会話と似たようなもので、

シエルを思い出す。



病気かと疑うほど細すぎる手足。

血色の悪い肌。

目なんて死んだ魚のように色がなくて。

失礼だけど同じ人間だと思わなかった。



でも…シエルだって、同じことを思っていたはず。

自分を奴隷の身分だと真面目に言うシエル。

ずっとストレス発散『道具』としか扱われてこなかったから。

自虐的な発言が多くて、ネガティブで簡単に自分を追いつめて。

よく泣いて、でも笑うことはなくて、いつも辛そうにしていた。



最近では、人間らしくなってきた。

ぎこちなくだけど笑うようになったし、

わたしやドクやアンスやお父様、お母様に身を預けることが出来るようになった。

変わらずよく泣くけど、出会った時と比べたらきっとその涙は違う。

自虐的な発言も最近聞いていない。

頑張り屋さんで心配性で、誰よりも相手を大事にしていて。



「……シエル、好きだよ」



いつも、どこにいたって。

わたしはシエルが、大好きです。





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