心に届く歌
「わたし、あの時ティラン伯爵のお屋敷に行って、あなたに出会ったの。
雨の中倒れていて、あなたのこと知らないからこうして家に連れてきたの」
「……」
「あなたの名前は?」
「……言いたくない…」
ぎゅっと目を瞑ったまま呟く彼。
聞きたかったわたしはちょっぴり残念だったけど、笑った。
「良いわよ。
誰にだって言いたくないことあるものね。
でもわたしの名前は覚えておいてね?」
「……知ってます…あなたのこと。
次の王様だって……皆言ってます……」
「……そっか。わたしって有名人なんだ」
「何で……僕なんかを助けてくれたんですか……」
僕“なんか”。
か細いけど良い声をしているのに、自虐するのは勿体ない。
「困っていたら助けるのが人間ってものでしょ?」
「……困っていたら助ける…?」
「そう。
だからわたしはあなたを助けたの。
暫くわたしの家にいると良いわ」
「そんなこと出来ませっ……ゲホゲホッ」
少し大きな声を出したからか咳き込む彼。
わたしは首を振った。
「直に出て行くとは言え、今のあなたを放っておくことなんて出来ないわ。
少なくとも熱が下がって怪我が治ってからにしなさい」
「……怪我…?」
きょとんとするように呟く彼。
わたしは彼の折れそうな腕を持ち上げた。