心に届く歌






わたしは毎日のようにアンスと話しながら、シエルの帰りを待ち続けていた。

でも一向に帰ってこないし、連絡もない。

お母様と出掛けているのだから、大丈夫だとは思うけど…正直不安はある。



待っている間にも、わたしとプーセの結婚式の準備は進んでいく。

行う場所は、アンスのお祖父様が設計し造った噴水広場。

多くの人が集まる最も活気溢れる場所で、ソレイユ家の結婚式はずっとそこで行われ続けている。

この間ドレスの打ち合わせに行った時通って見てみたけど、華やかな飾り付けはもうだいぶ進んでいる。

各メディアでも連日のように結婚式は報道され、国民も楽しみにしている。



だけど当の花嫁であるわたしは、周りの空気が明るく染まっていくと同時に暗く沈んでいく。

わたしの大事な時だっていうのに…シエルは一体何をしているの。

お母様だって、色々と準備があるはずなのに。



お父様だったらきっと、お母様とシエルがどこに行ったのか知っているだろうけど、

父親として国王として忙しいらしく、最近は会えていない。

使用人たちも忙しそうにしているので、アンス以外だと1日5人前後しか会わない。



アンスは毎日のように来てくれるけど、泊まっていくわけではなく帰っていくので。

基本わたしはひとりで過ごしている。

プーセになんて来てほしくないけど、ひとりになる時間が多いため、

最近では『プーセでも良いから会いたい』なんて思っているわたしがいる。



ひとりでご飯を食べる度、ひとりでベッドに潜る度。

いつだって傍にシエルがいた事実を思い出す。

一緒にご飯を食べたり、一緒に布団の中で夜を過ごしたり。

わたしの隣には、いつだってシエルが傍にいてくれた。



ぶつかったりもしたし、シエルが心を開いてくれなくて辛かった日もあったけど。

シエルの些細な成長に、わたしは一喜一憂して心から楽しんでいた。



いつかシエルが心から笑ってくれますように。

そう願っていたかつてのわたし。

今だってそう願っているけど、前とは明らかに違う点がある。

それは、その笑顔をわたしが1番近くで見られますように。

多くの人に支えられ、徐々に過去の苦しみから抜け出そうとしているシエル。

わたしはその喜びを1番近くで知っていて、とても楽しくて嬉しい。



良く考えてみたら、わたしたちは似ていたのかもしれない。



ずっと次期国王の肩書きを背負い、生まれた時から周りにいる人たちとしか知り合って来なくて、『陰』の部分を知らなかったわたし。

ずっと周りの人に存在を否定され、『光』の下に出られると信じて来なかったシエル。

『光』しか知らなかったわたしと、『陰』しか知らなかったシエル。

知らない部分が正反対だったから、わたしたちは出会えたのかもしれない。

出会って、お互いに成長し、共に喜び共に泣けたのかもしれない。



そんなの、ただのわたしの妄想かもしれないけど。

わたしは確実に、シエルと一緒にいて変わることが出来た。

あんなにも、一途に誰かを大事に思えた。




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