心に届く歌






「…久しぶりに弾こうっと」




夜8時にも関わらず、わたしはピアノの前に座る。

鍵盤にかかっているカバーを外し、ふと思い出す。

シエルがわたしのピアノで泣いてくれたことに。



「わたし、ピアノやっていて良かった」



お母様から送られた、作曲者不明の『心の歌ー表ー』

わたしはピアノの近くに置いてある譜面を取り出し、置いて指を鍵盤に滑らせる。

大好きな、ピアノの音色が部屋に響き渡る。




「…んん?」



あれ、この音…。

伴奏途中だったけど、わたしは手を止め、1番最初から弾き出す。

そして同じ所で再び手を止め、もう1度弾き直す。

それを3度ほど繰り返した時、わたしは違和感の正体に気付いた。




「何で…」




あの歌は、聞こえないけど覚えている。

綺麗な、彼の歌声が傍にいなくても聞こえてくる。

彼が隠し続けて来たものがわかったあの日、夜空の下で歌っていたあの歌。




「どういうこと…」



確かめたいけど、確かめられないもどかしさ。

わたしは立ち上がりスマートフォンを手に取り電話をかけたけど。

繋がらなくて切る。



「早く確かめたいのに…何で、確かめられないの…」



お父様に聞く?

いや、でもお父様は忙しい。

他に誰か、この曲を知っている人がいれば。



「…ドク」




わたしは呟き、走って部屋を飛び出した。






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