心に届く歌
☆ドクside☆
「ドクっ!!」
ノックもなしに突然入ってきたお嬢様に、僕は目を見開く。
「ど、どうされましたかお嬢様」
「ちょ、聞きたいことがあるのよ」
「聞きたいこと、でございますか」
はて。お嬢様が僕に聞くことなどあっただろうか。
「ドク、『心の歌』の表、知っているわよね」
「知っているも何も…お嬢様が幼少期から弾かれていたピアノ曲でしょう。
それがどうされました?」
「ドクなら知っているわよね。あの曲の作曲者」
…さて、どうしようか。
「教えてちょうだい。今すぐに」
「…聞いてお嬢様はどうなさるのです?」
あの曲の作曲者をぼくは知っている。
だけど、すでに亡くなってしまっている。
もう1度会えると信じていたのに。
「確かめたいことがあるの。
それに、ドクは知っているはずよね」
「何をですか」
「シエルの、歌」
首を傾げる。
シエル様…歌など歌っていたでしょうか。
「知らないのっ!?」
「さぁ…存じ上げませんが」
「じゃあ無理かな…」
お嬢様はとぼとぼと帰っていく。
…一体何がしたかったのだろうか。