心に届く歌






お嬢様が出て行き、僕はフイとさっきまで座っていた椅子に向かう。

年季がはいったそれをひっくり返すと、蓋が南京錠でかかった小さな箱が取りつけられている。

僕はポケットの中から鍵を取り出し開け、1つの写真立てを取り出す。




「兄様。兄様の主について、お嬢様から聞かれましたよ」



写真に写っているのは、僕と兄様。

今一体、兄様はどこにいるのだろうか。



「兄様は、お嬢様にお会いするのを楽しみにしていましたよね。
だから僕に、預けてくれたんですよね」



『これ、お前に託すよ』

そう言って兄様は僕に紙袋を渡してきた。

『俺の主がお前に預かってほしいって。ほら、お前俺の弟だから』

僕よりも優秀だった兄様が、僕に預けてくれたそれ。



「今実はそれ、お嬢様の大切な方にお渡ししているのですよ。
迷ったのですが、緊急事態だったので許してくださいね」



兄様が僕に預けてくれたそれは、彼にとても似合っていた。

サイズは少し大きかったみたいだけど、今はぴったりだ。

それほど彼は成長したんだ。



「兄様が最期に守った者は、一体どこにいらっしゃるのですかね?」



写真の中の兄様は、僕と別れる前日。

僕の髪がぐしゃぐしゃになるまで撫で、兄様は嬉しそうに笑っている。



「……兄様も、一体どこにいらっしゃるのですか?
生きているのなら、是非僕に連絡してくださいよ。

お嬢様に会わせたいですよ」



『お嬢さん、大きくなったら美人になるだろうなぁ。
俺の主予定の坊ちゃんと会わせてやりてぇぜ』



兄様の声が聞こえた所で、写真立てを仕舞い鍵をかけ、椅子を元に戻した。



「兄様、実は報告があります。

兄様の主予定だった坊ちゃまが、生きていらっしゃるかもしれないのですよ」



兄様が守ろうとした彼が、生きていると知ったら。

きっと兄様は、写真の中と同じような笑みを浮かべることだろう。






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