心に届く歌





『エル様、空を見上げてみてください』

「空……?」



見上げたわたしは、息を飲む。

大きくて綺麗な満月が、夜空に輝いていた。

満月の周りには、星々も煌めいている。



「わぁっ…すっごく綺麗ね!」

『僕も今外にいて、眺めていた所電話が来たのですよ』

「外…?室内に入らないの?」

『ホテルに泊まっていて、ベランダから見ているのですよ。
……ねぇ、エル様』



シエルは語るようにゆっくり話し出す。



『僕が今いる場所は、お屋敷から遠く離れた場所です。
ですが、こうして空は繋がっていますよ。

寂しくなんて、ないですね』

「シエル……」

『僕は、最近あなたの姿を見ていなくて、正直とても物足りないです。
いつだって傍にいてくれたエル様がいないだけで、心に穴が開いた気分です。

でも、こうして同じ月を見ながら電話出来て、
まるでエル様が僕の隣にいるみたいです』

「……ロマンチックな考えね」

『へっ!?……ご、ごめんなさい…夜のテンションで可笑しくなってます』

「アハハ良いよ。
わたしも同じだからね」



慌てているシエルが可笑しくて笑う。

月や空は世の中にひとつしかないから。

離れていても、シエルの目にはわたしと同じ風景が広がっている。

それだけで、とても心強い。



『……先ほどエル様、僕と一緒になりたいって言いましたよね』

「ええ」

『……僕だって、同じ気持ちです。
執事としてではなく、ひとりの男として、あなたの傍にいたいです』

「……シエル…」

『エル様。……僕、あなたのことが、大好きです』



キラッと、流れ星が舞い落ちる。

わたしたちのことを、祝福しているよう。



『出来ればこの場所で、あなたに僕の今の気持ちを全部伝えたいです』

「えっ?今のじゃないの?」

『今のも本音ですけど……本当の本音は』



シエルは区切ってから話す。

まるで、隣にいるように力強く。



『エル様、よろしければ僕と……名字を重ねませんか』

「……それって…!」

『僕と結婚して、同じ名字になりませんか?』



空にはいくつもの流れ星が舞い落ちる。

わたしの答えに、迷いも後悔もない。



「喜んでっ……!」

『えっ!?……あ、嬉しいです。
叶わなくても、嬉しいです』



別の人と結婚してしまうわたしは、シエルと結ばれることは出来ないけど。

シエルに言われたら、即座にオッケーだ。



『エル様、お話するのも楽しいですが、そろそろお休みになった方が良いのではないでしょうか』

「そうね……シエルも眠いでしょ」

『そうですね…ほんの少し眠いです』

「じゃあね、シエル」

『はい……おやすみなさい、エル様』

「おやすみシエル」



通話を終えたわたしは、両手をぎゅっと握り目を閉じる。

幾千も流れ落ちて行く星に向かい、わたしは願いを伝える。




どうか、

わたしたちに幸せをください。





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