心に届く歌
☆☆☆
シエルが帰らないまま数日経ち。
わたしは真顔でお父様と向き合っていた。
「……嬉しくないのか、エル。念願のウェディングドレスだぞ」
「嬉しくないわ。お父様も嬉しそうじゃないわね」
今日は、わたしとプーセの結婚式当日。
ドレスに着替えたわたしは、お父様と部屋で向き合っていた。
わたしもお父様も真顔でどこか暗く、幸せに溢れる結婚式当日の雰囲気ではない。
どちらかというと、お葬式だ。
「……そりゃそうだろう。
ひとり娘だ……幸せになってほしかった」
「お父様、シエルにベタ惚れだものね」
「ベタ惚れというか…まぁその通りだが。
彼はずっとあの小さな体で全部背負って来た。
出来る限りその重みを減らしてあげたいと思うだけだよ」
「わたし、シエルに家族を教えてあげたかった。
無条件に愛し合える家族を。
お父様とお母様は、シエルに愛を注げて立派だと思うわ」
「娘に立派と言われてしまったよ…。
随分大きくなったものだ」
苦笑いが響くけど、すぐに笑いは消えた。
「シエルくんとエルが結ばれた方が良いと思う人たちも最近は増えてきた」
「アンスのお蔭よ。わたしたちのことをずっと言ってくれたから」
「それもあるが、シエルくんが頑張っていたのを知っていた人が多いからだろう」
シエルがわたしの元に来てから、たまに街へシエルを案内していた。
それにシエルは積極的にお手伝いをし、今では商店街のおじさんおばさんたちのお孫さん的存在になっている。
学校帰りにおまけを貰ったりと、だいぶ可愛がられていたのを思い出す。
それに、シエルを支えていたアンス。
クザン家次期当主のアンスの名は高い上、性格も良いと評判で。
アンスが太鼓判を押したシエルは、アンスを評価している人たちからの評判も良い。
まともに勉強をしてこなかったシエルが2位の成績を修めたことも、背中を押している。
「まぁ……諦めることも、ソレイユの人間に生まれてしまった以上、しょうがないことだ」
「……そうね」
シエル……。
わたしは憎いほど晴れ渡った空を見上げながら、愛しき人の名前を想った。