心に届く歌
「失礼致します。
プランタン国王様、エル様、準備が整いました」
「わかった……行こうかエル」
「はい」
わたしはお父様の手を取り、ドレスの裾を持ち上げながら廊下を歩く。
玄関の扉を開け、今日のために色鮮やかに飾り付けられた道を歩き、噴水広場へ向かう。
深紅のカーテンの先には、祝ってくれる国民や新郎であるプーセがいる。
カーテンの前に立ち、式が始まるのを待った。
『それでは只今より、ソレイユ王国次期国王であります、エル・ソレイユ様と、
新郎、プーセ・クザン様の結婚式を行いたいと思います』
司会を務めるのはソレイユ家の執事長。
滅多に表には出ないけど、王族が関わる式には司会者として選ばれる。
多くの拍手が聞こえ、国民が待ち望んでいた日だとわかるけど、わたしの気分は浮かない。
『それでは、新郎でありますプーセ・クザン様にご入場いただきましょう』
大きな拍手に「きゃー!」と黄色い声が混ざる。
プーセは女好きで多くの女性と遊んできたと言うので、きっとその女性たちが騒いでいるのだろう。
『では、主役であります、エル・ソレイユ様のご入場です!』
バッと勢い良くカーテンが開き、わたしはお父様と一緒に腰から頭を下げ、ゆっくり1歩ずつ歩きだす。
バージンロードの先には、神父さんと後ろ向きのプーセが立っている。
国民はわたしの姿が見えた時盛大な拍手をしていたけど、歩き出した途端静かになる。
プーセに近づき、手を繋いだら、お父様は離れる。
神父さんに誓いの言葉を言われ、その後待っているのはキス。
わたしの手を取るのは……シエルが良かった。
真っ直ぐ見つめて歩きながら、バレない程度にお母様とシエルを探すけど。
お母様用に用意された椅子に座っていることもなく、見渡す限りいない。
戻るって、シエルは言っていたのに。
近づく度、泣きそうになってくる。
だけど泣いたらメイクが崩れてしまうので、ぐっと涙をこらえる。
シエル。
シエル。
一体どこにいるの、シエル。
小鳥の囀りしか聞こえない静かな空間。
プーセがゆっくり、振り向いて笑う。
わたしの手から、お父様の手が離れる。
プーセが手を伸ばし、わたしは握らないといけない。
……さようなら、シエル。
わたしはプーセの手を握ろうとした。