心に届く歌
「エル様ッ!!」
もうすぐで触れると言う時、声がする。
わたしは手を引っ込め、辺りを急いで見渡す。
プーセは舌打ちをし、国民はザワザワと騒ぎ出す。
そんな国民に、「ごめんなさい」「通してくださいっ」と誰かがスポンッと出てきた。
「はぁっ…は、ぁっ……エル様っ!!」
「シエルっ!!」
見たことがない、恐らく新調したばかりの黒いタキシードを着て、長い前髪を大きく揺らしながらシエルが肩を激しく上下させる。
「良かった…間に合った…」
「シエルっ…!」
こらえていた涙が溢れる。
わたしはプーセの横を通り、バージンロードから抜けてシエルの所に向かった。
「あ、あれ…?イヴェール様はどこですか?」
「お母様ならまだ来ていないわよ」
「嘘っ……!」
シエルは膝からガクンッと崩れ落ちる。
わたしは純白のウェディングドレスを気にせずシエルの横に座り、背中をさすった。
「大丈夫?シエル」
「ごめんなさっ…走って来たので…息がっ…」
両手で胸元を握り、荒く息を吐き出すシエル。
わたしは水を持ってくるよう頼み、シエルに飲ませた。
「はぁっ……ありがとう、ございます」
シエルは少し口角を上げると、立ち上がってわたしへ手を伸ばす。
わたしは躊躇いもなくその手を握り立ち上がった。
「ドレス汚くなってますよ。ちょっと大人しくしてくださいね?」
シエルは胸ポケットからハンカチーフを取り出し、わたしのドレスをはたく。
純白のドレスは少し黒くなったけど、すぐに消えた。